薬剤師業務のお作法

  


 現場の業務から遠ざかって久しい。やっぱり薬剤師なのだから現場で役に立ちたいと思っていたので、エイヤっと現場のシフトに入れてもらいました。日進月歩、医療が進歩している中で、どう考えても猫の手にしかならないので、せめて人手の足りない時間帯のシフトを選びました。

 自分なりに目標を立ててみました。一定の時間内に自分で決めた数をこなす、一定の患者数がいて、窓口の数は決まっているので、こなさなければ必要以上にお待たせするか、他の薬剤師に負荷をかけることになるので、それは避けたいことです。患者に寄り添った投薬をすることは自分の立場では当然で、むしろ、投薬時に行うべき処理は全て自分で完結することの方が難しい。その上で、自分の投薬を後で振り返ることもしなければと思っています。

 さて初日の感想なのですが、ますはお作法が全くできない。投薬すべき患者のセットを手に持ってから、行うべきチェックの流れ、例えば、電子薬歴で患者固有の情報を得る(患者のナラティブを頭に描く)、今回の処方の留意点(初めて使用する薬剤なのか、継続して服用している物なのか、何かがあって処方が変更されたのか)、患者呼び出し機への入力、正しく調剤が行われたかの最後の監査、お薬手帳の確認と処理、薬のお渡し、お金の受け渡し、ともかくやる事が多いので、流れるようなお作法で進めないと、時間もかかり無駄も多くなります。

 お作法はマニュアルではありません。物の位置や手や指の動き、目の動きなどを最小限、かつ常に一定にする所作です。あまりに久しぶりで、やるべきことも増えているし、特にコロナ対応で小まめな消毒まであります。もう、右往左往、あっちに置いたりこっちに動かしたり、どこに置いたか探したり。美しく流れるようなお作法には程遠い。そうなると、結局は忘れてしまうことも増えてあたふたするばかり。かつて身に付いていたはずのお作法を取り戻せるか、数をこなすことで戻れると良いのですが、どうなることやら不安です。

 コロナワクチンの集団接種を薬局薬剤師もお手伝いしよう、という思いで全国各地で注射の手技研修が行われています。朝霞地区でも二日間で70名の薬剤師がこの研修に参加しました。ここでも、大切なことはお作法です。針刺事故を起こさない、汚染させない、これらは最低限のお約束、その上で調整する注射の本数も一定数以上が求められます。1バイアルの調整に費やす時間は5分が目標。お作法が身に付いていないと達成できない目標です。

 どんなお作法も経験で身につくもの。この先の時間がもうあまりなさそうな私は、せめてイメージトレーニングだけでも頑張ろうと眠れない夜を過ごしそうです。